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かわさきマイスター紹介

造園士 井上 衛さん

住まいや公園に快適な緑あふれる憩いの環境創り出す

提供:川崎市
造園士は個人宅の庭から、公園や緑地、遊園地など、公的な大きなスペースまで、緑のある快適な環境を創り出す技能者です。今回取材した井上さんは、設計から造園までの樹種の選定、石組み手法、霜よけ作業、エコ対策にかかわる植生配置などで卓越した技能を保持されています。日本の造園は、世界に例のない芸術性の高い独自のものですが、その技術を基礎から高度の応用まで修得するとともに、その技術を表現し、教育する能力も兼ね備えています。
プロフィール
井上 衛さん

川崎市生まれ。中学を卒業後、個人の植木屋さんで5年間修行。昭和32年、父の跡を継ぎ独立。個人営業を経て、63年(株)井上植木を設立。昭和49年、厚生労働大臣認定「1級造園技能士」資格を取得。かわさきマイスター平成20年度認定。
中原区在住。㈱井上植木代表。
これは、井上さんの技能を紹介する動画です。クリックしてご覧ください。

井上さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

祖父の時代から農業の傍ら植木を育てて売っており、父が造園業を始めました。私は初め家業の植木屋を継ぐ意思はあまりなかったのですが、手伝っているうちに仕事は隙間なく入ってくるし、何かほかのことをやろうと考えている余裕もなく、いつの間にかこの世界にはまり込んだという感じです。あまり仕事に対する好き嫌いは考えたことなかったですね。造園は間口が広いし、植木屋で勉強したり、いろいろやっているうち面白くなり、会社組織にして本格的に営業を始めたわけです。

やっていて1番面白いと感じることは何ですか?

自宅の庭にある樹齢300年の五葉松を手入れする井上さん。
自宅の庭にある樹齢300年の五葉松を手入れする井上さん。
大きな樹木、小さな木々と、樹形に応じ、いろいろ移動させることが面白いですね。時には高さ20メートル以上、重さ7、8トンの巨大な樹木を移植することもあります。そういう大きな木は重機を使って移動しますが、スコップ片手に庭木を植え替えたりすることも多いです。やはり自然相手の仕事ですから、気分は爽快です。得意先から難しい庭仕事を請けて、自分の思い通りに造園できた時はうれしいですね。印象に残っているのは、昭和45年頃、ちょうど高度成長期に近在で、余裕ができて家を建て替える農家が相次ぎ、千葉のほうから庭園用の大きな植木や庭石をどんどん運んできて大忙しだったことですね。
 最近は造園するより、敷地をマンションなどに転用して、せっかくの庭を逆に壊すケースが増えているのが残念です。「邪魔だから、この木切ってくれ」という注文まで来る時代です。自然を愛する日本人の心は、どこへ行ってしまったのでしょうか。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか?

愛用の道具類。子どもの頃からこうした道具に慣れ親しんできたということです。
愛用の道具類。子どもの頃からこうした道具に慣れ親しんできたということです。
造園技能士は国家資格で、私の認定証は「造園第21号」となっています。造園部門の検定が始まって2年度目に検定試験に合格しました。技能士は、自分で完全に作業ができないと取れない資格です。造園業という家庭環境で育ち、祖父や父親から植木の技術を学び取る一方、実際に自分でもハサミを握って子どもの頃から見よう見まねで仕事を覚えてきましたから、造園士という職業意識が幼児から自然と身に染み付き、ごく普通に造園技能士への道を歩ませたのではないかと思います。もちろん勉強もしました。

苦労したことはありますか?

屋外でする仕事ですから、季節の変化に対応することが結構大変です。特に最近は地球温暖化のせいか、夏場が暑くなってきてしんどいですね。午前中はいいが、午後はとてもとても…。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください

小さなハサミで巧みに剪定する名人の手。今は持てる技量を十分に発揮できる現場が減ったというのが悩みだそうです。
小さなハサミで巧みに剪定する名人の手。今は持てる技量を十分に発揮できる現場が減ったというのが悩みだそうです。
造園全般にわたって、これまで培った技術力の全てを投入してお客様にご提供できるよう努めています。正直いって、今は自分の技量を発揮できる現場が減りましたね。特に市街地では減っています。「造るより壊す」で、若い人に技術を教えようにも、教材となる現場がなくなってきました。

ものづくりについて教えてください

ものづくりの魅力を教えて下さい。

作業用倉庫には造園用の工具などがずらりと並んでいます。手にしているのは大型チェンソー。
作業用倉庫には造園用の工具などがずらりと並んでいます。手にしているのは大型チェンソー。
庭づくりでメインとなる木を、それなりにじっくりと時間をかけて仕上げていく過程ですね。建物にマッチしたものができれば最高です。個人の住まいの場合、その家に即した形の庭をあれこれ図面を描きながらじっくりと考え、練り上げていく時間は心が躍ります。造園士としてのやりがいを感じますね。
 ところが最近は、あまり時間をかけるとお客さんの評判がよくないのです。「早く仕上げてくれ」という注文が飛んできます。短時間で仕上げれば、それだけ労賃が浮くということでしょうが、昔はあまり早く仕上げると逆に「お前、手を抜いたな」なんて言われたものです。スペース的にも窮屈になって、袖垣(建物などのわきに添えて造った幅の狭い垣根)など手間のかかる仕事が減ってきましたし、少し寂しい感じがします。

かわさきマスターに認定されて良かった点を教えて下さい

格好いい井上さんの作業スタイル。
格好いい井上さんの作業スタイル。
今のところ仕事に結びつく具体的な話はきていませんが、認定された時、仕事仲間から「おお、取ったのか」と誉められ、うれしかったです。マイスターの称号は私にとっては非常な名誉であり、うちの従業員にとっても励みになるのではないかと思っています。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

愛用の道具類を手に造園の極意を語る井上さん。
愛用の道具類を手に造園の極意を語る井上さん。
今は息子が社長を継ぎ、私は代表を務めていますが、後継者として立派にやってくれていると思っています。現在、従業員は11人いますが、この会社を設立した時、求人広告を出し、全く園芸を知らない人ばかりを採用しました。息子も高校の商業科卒業です。普通なら農業高校から農業大学というコースでしょうか、息子も私もそれを選びませんでした。最初は造園のことなど知らないほうがいいのです。学校で色々なことを学びすぎると、いざ現場に出ると困ることもあります。技術を伝承できれば最高ですが、今の時代、昔の流ればかりにこだわっているとやりにくい面も出てきます。川崎の場合、講習できる会場が少ないのも困ったことです。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします

取材時、近くのお寺に井上さんの手によるソテツの霜囲いが見事な姿を見せていました。
取材時、近くのお寺に井上さんの手によるソテツの霜囲いが見事な姿を見せていました。
まず本人のやる気と体力。頭だけがいくら良くても長続きしません。途中で辞めてしまう人は、自身どこかに欠点があるからだと思います。そういう人は次の仕事についてもきっとうまくいかないと思います。造園は繊細な仕事ですが、あまり器用過ぎてもダメですね。植物の知識や美的センスを磨くことも必要です。他人が仕上げた仕事をよく見ることも技量を磨くのに役立つでしょう。

最後に、これからの活動について教えて下さい。

現在この地区の支部長を務めていますが、もっと同業組合を盛り立てていきたいと思っています。それぞれ意見が違ってまとまらないこともありますが、技術向上へ前向きの姿勢で取り組みたいですね。

どうもありがとうございました。
見事な樹形を見せる樹齢100年以上という五葉松を、小さなハサミ片手に器用に剪定していく井上さんの指は、まさに職人の指でした。また、ご自宅近くのお寺の境内では、稲わらをなわで結び付け、あざやかな松竹梅に形付けられた、井上さん製作の霜よけが人目を引いていました。寒さから温かく守られた樹木は高さ5メートル前後の大きなソテツの木々たちです。
【問合せ先】  
株式会社井上植木

■所在地   中原区上新城2-7-11
■電話    044-755-4666
■FAX         044-755-2253
■営業時間  9:00~18:00
■休み    日・祝