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かわさきマイスター紹介

農業(花卉生産) 吉田 義一さん

手間を惜しまない努力が黒いつぼみを色鮮やかに咲かせる

提供:川崎市
吉田さんは桃や梅などの枝ものを出荷するために切断し束ねる、馬絹伝統の技術「枝折り(しおり)」の第一人者です。その際に結束機を利用して手作業と同様に枝を束ねる技術を考案。また、開花を促すための地下室(ちかむろ)を、電熱器などを用いて地上に再現し、「地上室」へと改善しました。これらの創意工夫が作業の効率化・軽労化による生産量拡大を可能にし、馬絹地域の農業後継者の就農促進と地域の活性化に結びついています。

プロフィール
吉田 義一(よしだよしかず)さん

花卉生産農家の3代目として早くから家業を継ぎ、花桃を中心とした枝ものや切り花生産に携わる。調整・出荷に高い技術が必要とされる枝もの生産において、重労働だった「枝折り」の作業で、省力化のための技術や地上室を考案。また、全国の若手を自宅に寝泊りさせて指導するなど後進の育成にも力を注いでおり、その技術は馬絹地域だけでなく、県内外に普及している。こうした技術や姿勢が高く評価され、平成21年には全国で28名、神奈川県で唯一の「農業技術の匠」として農林水産省から認定された。「新矢口(花桃)」の品種改良で農林水産大臣賞を受賞するなど、受賞多数。平成21年度認定かわさきマイスター。
これは、吉田さんの技能を紹介する動画です。クリックしてご覧ください。

吉田さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

収穫ではまず、台木から枝を切ります。
収穫ではまず、台木から枝を切ります。
馬絹の花卉生産は祖父の吉田仲右衛門が草分けのような存在で、私で3代目です。父親が戦後、体の具合を悪くしたため、17、8歳の時にこの仕事を始めました。それで人からあまり教わっていないので、祖父や父親が教えた人たちの仕事を見て、もっとこういう風にした方がいいのでは、と考えながらここまでやってきました。一言でいえば、負けず嫌いだったんでしょうね。寝ずに働きました。割合と器用だったので、親戚のプロパンガス会社を手伝っていた時期もありましたが、伝統ある「吉忠(屋号)」という名前があるし、祖父の顔を見ると寂しそうで。それで、これでは駄目だとすぐに花専門に戻って、それからは花一筋です。

やっていて一番面白いと感じることは何ですか?

つぼみも真っ黒な、ただ黒いだけの枝を切ってきて、花が色好く上がるように「蒸かし(温度をとって咲かせること)」て、きれいに花が咲いた時は嬉しいですね。ひとつ間違うと色が変わってしまうので、そこは研究です。同じ作業をしているようですが、毎年勉強で、その年の天候に合わせて咲かせないといけない。例えば、冬が温暖な方が楽に見えますが、実は失敗することが多いんです。自然を相手にしていいものを作るということはすごく大変で、勘というか、目には見えない難しい部分があります。農家や生産者が8時間労働のところを10時間働いて、いかによく観察して手入れをするかで、すごく差が出てくる。ですから、きれいに咲くように努力をして、ちゃんといい花が咲くとすばらしい気持ちです。
切り取った枝を短くする「そくり」。
切り取った枝を短くする「そくり」。
鎌を使った「そくり」の技術も吉田さんの得意とするところ。
鎌を使った「そくり」の技術も吉田さんの得意とするところ。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか?(他の道に行こうと思わなかったですか?)

今は花を飾る人や生け花を稽古する人が減ってきましたが、そんな時代に合わせて、どこの家庭でも使っていただけるように、コストを安く、量を流しています。例えば、桃の節句に短い枝でいいから生の花を飾りたいというご家庭向けに、60~70センチの桃の枝もたくさん納めています。昔は120センチの長い枝を花屋さんが売る時に刻んだものですが、今は生産者があらかじめ刻んで束にしたものを蒸かして納めるので、そのまま販売することができます。私は昔から高望みはしないんです。少量を高く売って喜ぶのではなく、時代に合わせて、コストが安くてもいいから、量でこなすというやり方をずっと通してきました。特に農家は量を作った方がいい。他の人にもそう言って指導しています。量産のためには、8時間労働ではとても間に合わないので、家族も毎朝5時に起きて仕事をしています。それでも、売り上げが伸びていい、ということで、馬絹で後を継ぐ人がどんどん増えてきています。

人間は持って生まれたセンスがあると思いますが、私は植物が好きで、作るだけでなく生け花や盆栽も好きです。生活のためにやっているにせよ、もともと好きだから、いいものを作ろうという努力をしてこれた、と思います。

苦労したことはありますか?

今はマンションや住宅の中に農地があるので、住民のみなさんにご迷惑がかからないように、農薬散布の時に一番気を遣います。今の日本の農薬は昔に比べてずっと弱くなってはいますが、消毒する時は、場所によっては前日に日時を書いた看板を立てたり、風向きに注意するなどして気をつけています。3月の消毒しなければいけない時期に春一番のような風が吹くと大変ですね。かといって風のない早朝に撒くと、エンジン音が騒音になるし、馬力が弱い機械だと大きな木に農薬が届きませんから、目に見えない苦労がいろいろとあります。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください。

丁寧で素早く上手に「枝折る」ことや、枝を短くする「そくり」の方法に自信があります。自信を持っているからこそ、人にも教えられます。教えられた通りにやったら枝が上手に生きたとか、生ける時に生けやすいと、人からよく言われます。親からもらった手とセンスはあるのかな。生け花や庭の手入れも先生に教わったことはありません。植木屋さんの手入れを見ると、好きだから、ああやってやるといいんだなとか、仕事が読めるんだと思います。

吉田さんの提案で改良された結束機。長い枝が束ねやすくなりました。
吉田さんの提案で改良された結束機。長い枝が束ねやすくなりました。
結束機で枝折った枝。手作業では冬に弾力のある枝を寄せて束ねるため、あかぎれが絶えない重労働でした。
結束機で枝折った枝。手作業では冬に弾力のある枝を寄せて束ねるため、あかぎれが絶えない重労働でした。

ものづくりについて教えてください

ものづくりの魅力を教えてください。

蒸かす前に枝折った枝をまとめて水につけておきます。
蒸かす前に枝折った枝をまとめて水につけておきます。
生活のために作っているとはいえ、桃の花は素敵です。自然に咲いた花より、蒸かして上手に咲かせた花の方が、霜にあたらない分、鮮やかできれいです。自分が100パーセント納得できるものは一生かかっても作れない、ということがものづくりだと思いますが、だからこそ努力をしていいものができると喜びを感じます。根っこのないものを、温度を上げたり、栄養剤や水揚げ剤を使っていかに大きな花を咲かせ、美しいものをもっと美しく見せてあげるか。栄養剤ひとつとっても、その品種にはどれが一番合うのかを研究しながら咲かせています。それに、花をもらって嫌な顔をする人はいません。人が喜んでくれることが、何より花作りに携わる生産者の喜びだと思います。私の代から毎年春になると、近所の各小学校の生徒が大勢見学に来ますが、子供が喜んでくれることも嬉しいですね。

かわさきマイスターに認定されて良かった点を教えてください。

農家として初めて認めていただいたし、みなさんからもほめてただき、花を作っていて良かったなと思います。時間があれば、もっといろいろな場所に出て、花を配ったり、自分の好きな方法や発想で生ける「自由生け道」教室を開いてみたいですね。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

吉田さんが考案した地上室。地下室同様、23度~25度に温度が保たれ、湿度が高くなっています。
吉田さんが考案した地上室。地下室同様、23度~25度に温度が保たれ、湿度が高くなっています。
息子が後を継いでくれましたが、こうしろああしろとは言いません。息子も長年やってきたプロですから、息子は息子のやり方でいいと思っています。

「吉忠」へは祖父の代から大勢の人が枝折りものの技術を教わりに来ていましたが、私の代にも方々から若い人が来ています。大学や専門学校を卒業後に、普及センターや農協から紹介されて来たり、今はインターネットで調べて来たり。2週間~1ケ月程度の短期研修もありますが、本格的に勉強する人は住み込みで2年間働きます。中にはその後、自分の土地がなくても、土地を借りて努力して生産量を伸ばしてきている人もいます。若い人にこうしなさい、と教えたことはありません。仕事は人の仕事を盗んで覚えるもので、自分もそうしてきましたから。わからないところを自分で聞けるようになったら、少し成長したかな、と思います。伸びる人はやる気があるし、よく遊びますね。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします。

川崎市には優秀な農家や生産者が大勢いますが、そうした人たちと同じで、いいものを作るための努力をする人が一番向いています。言葉だけの努力ではなく、農家は体を使った努力をしないといいものはできない。理想論ではだめだということです。手間をかければかけるだけ、植物は反応してくれますから。例えば、畑へ行ってアブラムシがいたら、木が苦しがっているわけですから、ほっとかずに即座に対処します。明日やればいい、と言う人もいますが、1日でも早い方がひどくならないし、その分、お金もかかりません。植物は手間をかけた分、ちゃんとお礼をしてくれる。人間より正直です。
室から出され、出荷を待つ桃の花。
室から出され、出荷を待つ桃の花。

最後にこれからの活動について教えてください。

いろいろな花を作っていきたいです。桃では数年前、新しい品種を作ることに成功したので、今年はこれを蒸かしてみて、花の色が薄い方がいいのか、濃い方がいいのかや、花付きなどを検討しているところです。これからは私の子供たちの時代なので、いろいろとやってみて、丈夫なうちに形として子供たちに残してあげたい、と思っています。

どうもありがとうございました。
これからの農家は大量生産でなければ生き残れないという信念で、効率化のための技術開発や販路の拡大に取り組んできた吉田さん。「吉忠」という名前を継承するだけでなく、時代に合わせて果敢にチャレンジする姿勢に、現代を生き抜く匠の知恵とたくましさを感じました。
【お問合せ先】
吉忠(よしちゅう)


■所在地   川崎市宮前区馬絹1761
■電話    044-866-3357
■FAX     044-866-3357
■営業時間  9:00~17:00
■休み    土曜日