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かわさきマイスター紹介

神社寺院銅板屋根工事 関戸 秀美さん

社寺建築の「そり」、湾曲した「箕甲(みのこう)」、宮殿の「玉飾り」をひずみを出さないで腕1本で仕上げる

提供:川崎市
関戸さんは、銅板屋根工事のスペシャリストです。赤坂迎賓館、三菱第一ビル、鎌倉鶴ヶ岡八幡宮と日本の名だたる建築物、又、地域の神社寺、日本家屋(数屋、茶屋)も幅広く手がけてきました。社寺の多い京都・奈良は瓦屋根が主流で、銅板工事の場合東京から専門業者が行くことが多く、川崎市内のみならず、全国的に見ても、数少ない職人です。ひとつの仕事を時間をかけてじっくりと仕上げていく、その技術のほんの一コマを見せて頂きました。
プロフィール
関戸 秀美(せきど ひでみ)さん


多摩区出身。小さい頃から親戚の板金屋に出入りし、この道に入る。神社仏閣の仕事に興味を持ち、全国の仏閣を手がける小野工業所に22歳のときに入る。初めての仕事は迎賓館の昭和の大修理。そのときに見込まれて技術を修得。25歳で独立、幅広く銅板の仕事を担う。今までに関わった仕事は、150件を下らない。
川崎市多摩区在住。有限会社関戸経営。平成13年度認定かわさきマイスター。
これは、関戸さんの技能を紹介する動画です。クリックしてご覧ください。

関戸さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

母の実家近くで、叔父が建築板金業をしており、幼い頃から遊びに行って職人になると周りに言っていました。昭和38年に弟子入りすると、叔父(親方)が厳しい人に変わりました。親戚の子ということで、職人・兄弟弟子の手前甘やかせたくなかったことと、意地をつけるため、厳しく指導したのだろうと思っています。定時制高校の通学があったため、仕事時間を早く切り上げるとその分仕事の習得が遅れてしまうという配慮があったのでしょう、3年間は盆休み以外休みなしでした。逆に兄弟子たちの同情を買う程でしたが、その分仕事も良く教えてくれました。年に1、2回神社の仕事があったことがきっかけで、その仕事に興味を持ちました。
7年を経て社寺専門の小野工業所に入社し、初めての仕事が、赤坂迎賓館(昭和の大改修)でした。よい指導者に恵まれ、特殊な技術を学ぶことができました。ここで、各方面の仕事に携わり、その後独立し、銅板屋根工事を主として現在に至っております。

やっていて一番面白いと感じることは何ですか?

今まで一人で仕事をしてもらいたいという現場が多く、隅々まで気を遣って完璧に近い仕上げで納められたときは、やりがいを感じております。人から見られないところでも、完璧さを求める性格で、屋根の上に飾る宝珠等(既製品)もありますが、屋根の形状に合わないと思うと商売を度外視して自分で造ることもあり、そのときは自分なりに満足しています。常に悔いない仕事をしておきますと、後で見に行く楽しみが出てきます。
あと、他業者が手が出ない品物を、業者や問屋からたらい回しで持ち込まれることがよくあり、それをやり遂げた時、必ず昔その技法を教えてくれた人を思い浮かべ感謝します。職人冥利に尽きるときです。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか? (他の道に行こうと思わなかったですか?)

仕事を始めて50年弱。他の道に行こうと思ったことはありません。恵まれた事に技術を見込んでくれた得意先があった事でめぐり合わせといつも思うのですが、多くの寺社の仕事を全て一人で気に入る様に工期も無理もいわずにやらせてもらえた。この環境が仕事を進めるに当たっての余裕と向上心につながるものがあったと思っております。又独立してから後に24年間日本工芸会の教授に厚物の絞りと、彫金を師事、いまだに師匠の域には達しませんが全て手作業で、800年、1,000年前の伝統技法で作品を作り出す。槌と当金頼りの世界、計り知れない奥深いものがあり、それに魅れたこともあったと思います。

苦労したことはありますか?

廻りの人に恵まれて苦労は感じませんでした。いつも好きな仕事に携わることができ、幸せだと思っています。修行時代は親方がスパルタで朝から晩まで追い飛ばされて定時制高校から帰ると仕事場に電気が点いていて仕事を手伝う。はたで見れば苦労しているように見えたでしょうが、本人は苦労とは思わなかったんですね。とにかく「兄弟子に少しでも近づかなくては」というプレッシャーばかりでした。現場を請けたときの大変さはあります。現場に乗り込んだときすでに工期が短いときが良くあります。足場のある内に屋根を仕上げなくてはいけないのに→大工工事が遅れて足場を外したがる。それは後工程の石屋が来てしまう。これが常です。工期との戦いですね。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください

叩いたところに輝きが戻ります
叩いたところに輝きが戻ります
銅板屋根葺きでは常にひずみを極力出さないで仕上げる事を念頭に置いてやってきました。それに必要な技術で絞りがありその技術を習得できたことです。この技術が確実でないと特に宮殿建築の飾り仕事は手を出せません。この技法は薄物(0.3t~0.8t)の絞り技法です。屋根関係外でも料亭のカウンター(木下地)で曲線、曲面を持ったもの、また調理器具も含み銅板工事の依頼もあります。厚物(0.8t~2.0t)鉄、銅、金、銀、四分一、赤銅等の金属を絞る(槌起)の技術も習得できた事で宝珠、擬宝珠、社寺の飾り金具、茶道具(創作)、調理道具等が製作可能になり仕事の幅が広がったこと、このことで作品展等に参加ができ評価も頂け、技能向上にもつながってマイスターのイベントにも協力させていただけることです。
滑らかな曲線美に仕上げます
滑らかな曲線美に仕上げます
厚みや大きさによって叩く金槌を選びます
厚みや大きさによって叩く金槌を選びます

ものづくりについて教えてください

ものづくりの魅力を教えてください。

社寺建築の美しい屋根の曲線、この曲線を銅板を葺くための割り込みによって更に引き立てる墨出しをする時が魅力です。しかし責任も重大です。又銅板屋根材である(0.3t~0.5t)の薄板は「歪」が出やすく扱いにくい厚さでもありますが、「歪」も出さず思い通り現場の作業が終了したときの達成感は、格別なものがあり、その過程での緊張感も魅力です。槌起の材料にふれますと鉄は非常に堅い金属ですが性質を知って扱うと言うことを聞いてくれます。金、銀という柔らかい地金は合金にする他の材料の割合を考えてやると様々な特徴を教えてくれます。他に銅(赤銅も含む)、四分一(朧銀)も独特の個性があり、各金属の特徴をよく把握した上で作品のプランを考える。当然金属のそれぞれの発色(煮色)効果等も念頭におき進めていく。これらが金工の最高の魅力のひとつです。

かわさきマスターに認定されて良かった点を教えて下さい

気を遣う面と、よかったと思う面と、両方あります。もっとしっかりしないといけないという励みになりました。
「社寺銅板屋根施工」と車に書いてあるのですが、これは自分へのプレッシャーでもあるんですね。マイスターも同じだと思います。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

銅板を切る、特注のハサミ
銅板を切る、特注のハサミ
どの職種も共通していると思いますが、この仕事の場合覚えたいという熱意と素直さが特に必要で、親元を離れ最初から専門の業者で数をふむことも確実です。しかし片寄りがあり理想としては個人の会社で何でも手掛け基本を積んでから専門の勉強をするのが本人が後で楽ができます。そして風当たりが強いですが、文化の中心→東京で優秀なライバルと共に技術の研鑽に努め、他流試合を常に行うことで、色々の面が向上し将来大きな自信につながります。これは本人は元より親の覚悟が必要です。今は弟子を持つ時間が作れませんが、訪ねてくる人にはこのような話も致しますし技術指導もその人のレベルに合わせた形で行っております。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします

「いかに矛盾に耐えてこられたかが職人だそうです。」今は色々の面が変わってきて建築の様式、工法にも変化があり、職人にも変化が現れ、既製機械加工品の取り付けが主流で、能率重視の分業化された時代で「これはできてもこれはだめ」できないものは他社に頼めばそれですむ。昔は「のれんの恥」だったんです。このような若い職人が増えて悩みの種と聞きますが、無理もなく何でもその場で加工ができ、臨機応変に仕事を納めることが出来るのが職人であるべきが、それをやれるのは例外もありますが60代、70代の人である。若い人は特に(伝統技術)関係の仕事の場合は、真摯に学び継承される様努力されることが大事だと思います。(今日も昔の形を変えず黙々と宮大工の修行に打ち込む若い人たちを各所で見かけますが、頭が下がるときもあります。)

最後にこれからの活動について教えてください

建築様式が変わって、一般の家で板金が必要でなくなってきましたので、店を閉める板金屋が増えました。生き残っている板金屋さんの息子さんを大切にして、応援してあげたいと思います。
今までいろいろな人に教えてもらいましたから、その恩返しをしていきたいですね。

どうもありがとうございました。
神社や仏閣で見かけたことのある屋根のパーツがすぐ目の前にあり、まじまじと見ることができました。細工は実に細かく、美しいものばかり。また、あの曲線が金槌で叩くことにより作られていたとは、まさに驚きです。
街で通りかかったら、屋根の上に目をやってみるのも楽しいかもしれませんね。

川崎市の技能者や職人の皆様を紹介する映像番組「The 職人魂」でも、紹介されました。

【問合せ先】  
有限会社関戸

■所在地      多摩区登戸新町67-1
■電話    044-922-5064
■FAX     044-922-5064
■営業時間  8:00~17:00
■休み    日・祝